今回は決算書の読み方についてご紹介します。
決算書の読み方と言っても、簿記の経験が無いと細かい部分までは理解が難しいかもしれません。
そして仮に簿記の知識があったとしても、本当に崖っぷちに立たされた企業の特性や行動パターンを理解していないと、なかなか危険シグナルを察知する事はできません。
ここでは、一般的な財務内容の分析ではなく、危ない会社の決算書の読み方について記載していきます。
危険を察知するには、簿記や会計の知識よりもその背景を考えてみる事が重要になります。
危ない会社とは?決算書を確認する目的やその効果
そもそも危ない会社とは何ですか?
危ないってただ事じゃない表現ですよね。笑
ここでは、倒産が危惧される会社の事です。
もちろん良い事では無いのですが、コロナウィルスの影響でこれから企業の倒産が間違いなく相次いで起こります。
この環境下で生き残って行くためには、「貸倒れ」は絶対に回避しなくてはなりません。
とはいえ、決算書を入手するまでのハードルが高いように思いますが。
お客様に「決算書出してください」とはなかなか言いづらいものがありますよね。
ご指摘ごもっともです。
ただ、財務内容に不安を感じた場合は提出を求めるべきです。
取引を行う重要性が勝れば提出に応じて頂けます。
提出できない場合には、何か理由でもあるのかという事にもなります。
もっとも、信用調査会社から数期分の財務情報や調査資料などが取得できる場合はその内容で事足りる場合もあるでしょう。
基本的には嫌がられますよね、怖いわぁ。。。
雰囲気が悪くなって取引に支障が出る場合もありそうですが、それでも頂いた方がいいという事ですね?
そうです。
逆に確認を怠って取引を進めたとしても、万が一の事があれば「騙したな!」などと必要のない摩擦を生みかねません。
財務体質が危ない企業と取引をする以上、それなりの覚悟を持って進めなければなりません。
逆に健全な財務体質のお客様と全く同じフローで進められる方が不自然です。
危ないとわかっているのに「言いづらい」とか「めんどくさい」また「時間がかかるから」などと何の手も打たずに勢いと流れに任せて取引に応じてしまうと、後で後悔しても遅いです。
そして、必ず「入り口で」交渉する必要があります。
取引を開始してしまってからではなかなか取得が難しくなります。
趣旨はわかりました。
それでは、実際に決算書を確認する際に注目すべきポイントを具体的に教えて頂けますか。
わかりました。
与信管理をしっかりした上で、決算書を判断材料に使う場合の参考にして頂けたらと思います。
信用調査会社の財務情報などを確認する際にも、全く同様の視点で見る事ができます。
与信管理は以前、下記の記事で紹介しましたのでご参照頂けますと幸いです。
それではより具体的に見て参りましょう。
経理職・経営者・営業職が気を付けるべき決算書の資料と項目
・決算書(PL・BS・CR)
・勘定科目内訳明細書
・法人税申告書別表(別表1、別表2、別表4、別表5、別表16)
決算書を見る際には、PL(損益計算書)とBS(貸借対照表)、場合によってCR(製造原価報告書)を確認しますが、その他にもできる限り確認したい帳票があります。
上に記載したもののうち、取得できるものはなるべく取得します。
勘定科目内訳書や法人税の申告書はできる限り提出を求めて下さい。最近では、多くの金融機関もこれらを求めてくるため、メインバンクに提出した経験がある方も多いでしょう。
逆にそれらの提出は、同じような視点に基づき財務内容を監視されているという事です。
金融機関の場合はただルールに従って提出を求めているという事もありますが、逆に言えば決算書や内訳書があればリスク回避のための分析がある程度可能という事です。
決算書の真っ先に気を付けるべき注目ポイント10選をご紹介
1.有利子負債の規模
2.営業利益の状況
3.棚卸資産(在庫)の状況
4.手形の割引状況
5.仮払金や貸付金の残高
6.売掛金や受取手形の内容
7.固定資産と減価償却費の状況
8.税金の滞納状況
9.人件費の状況
10.買掛金や未払金の内容
いくつかポイントをあげ、それぞれについて解説を加えていきます。
今回は限定10選に絞り見ていきます。
細かくはもっとありますが、だいたいこの辺りを押さえておけば問題ありません。
なお、危ない企業の場合は「正しく処理されている」という前提は捨て去った方がいいです。
どこまで疑ってかかるのがいいか、道徳的にどうかという事はありますが、これはビジネスの話です。
逆にこれらの疑問や懸念を潰しておく事ができれば、安全に、かつ信頼感を持って取引を進める事ができます。よりよい関係性の構築にも繋がっていきます。
決算書の注目ポイント1 有利子負債の規模
言うまでもなく、最も重要です。
企業が倒産する原因は、「赤字」などではなく資金ショートです。
さらにその原因となるのが負債の規模です。
つまり返せなくなってしまうとアウトという事になりますが、ここで言う有利子負債とは、いわゆる買掛金などの営業債務は含みません。
ではどの程度の規模から危険と言えるのかと言うと、年商の半分程度から危険水域と思った方がいいでしょう。
年商が10億であれば5億といった具合です。
また、数期分を比較し、返済されているかも確認しましょう。
危険と判断すべき負債の規模は業種や利益体質によります。
よくあるのが精密部品などを手掛ける製造業などでは、年商と同等程度の負債を抱える事も少なくありません。
特に中小零細企業ではその傾向が顕著ですが、最新設備を持っていないと競争に勝てない事が多く、設備投資にかなりの資金が必要なためです。
その時点で既に健全な財務体質とは言えませんが、需要が確実な事業への最新設備に投資しているような場合は問題ない場合もあります。
信用調査会社のコメントや資産の状況と照らし合わせ、慎重に判断する必要があります。
また、負債の返済原資は利益から捻出する必要があります。
営業利益の規模に比しあまりにも負債の規模が大きい場合はどこかでショートする可能性が高いという事になります。
一方で、減価償却費は過去に支出したものを費用化しているためお金は出ていきません。
「利益+減価償却費」が返済原資であり、返済額がこれを上回る場合は返済できなくなるという事になりますので、これらを総合的に判断する事になります。
決算書の注目ポイント2 営業利益の状況
営業利益は本業により獲得する利益です。
この部分が経常的にマイナス(赤字)であり、前述した負債の規模が大きい場合は回復する見込みが薄いと判断した方がいいです。
むしろ破滅に向かっています。
仮に営業利益や経常利益がマイナスでも、突発的な特別利益などにより黒字化している場合があります。
資金繰りに窮して固定資産を売却しているような場合もあるかもしれません。
更には役員借入金の債務免除で利益が出ているような事もありえますし、その場合は余計に注意しなければいけません。
また、利益率にも注目してみましょう。
「売上総利益」と「営業利益」のパーセンテージなどですが、数期分を比較し、悪化傾向にないか確認する必要があります。
決算書の注目ポイント3 棚卸資産(在庫)の状況
企業が資金繰りに窮した場合、どうにか新規の融資を引き出し延命を図ろうとします。
その場合、利益を出し続ける必要が出てきます。
良い事ではありませんが、いわゆる粉飾決算が行われる事があります。
粉飾決算(ふんしょくけっさん、Window dressing)とは、会計用語の一つで、会社が不正な会計処理を行い、内容虚偽の財務諸表を作成し、収支を偽装して行われる虚偽の決算報告を指す。
引用元:wikipedia
粉飾決算が行われる場合に最もよく行われる偽装の一つが棚卸資産の水増しです。
下駄を履かせるなどと言う事もありますが、特に製造業では「製造業の会計は在庫に始まり在庫に終わる」と言っても過言でないほど財務諸表への影響が非常に大きいです。
この棚卸資産が不当に増え続けていないかを確認する必要があります。
売り上げ規模が一定であれば、基本的に同等の水準にとどまるはずです。
また、年商に比して極端に残高が大きいような場合も注意が必要で、少しでも違和感を感じた場合は疑ってかかった方がいいでしょう。
内訳書があればもう少し詳細に内容を知ることができます。
もう一度言いますが最も粉飾に利用されやすいのが棚卸資産です。
決算書の注目ポイント4 手形の割引状況
建設業や製造業の場合、売掛金を手形で回収する事も多いです。
通常であれば期日まで待って現金化するわけですが、資金繰りの苦しい企業はこれを割引します。
決算書を見て確認するのは、割引手形と受取手形の残高です。
つまり、割引手形(割引済みの手形)の残高が多く、受取手形(手元にある手形)がほとんど無いような場合には、受け取ったものを片っ端から割引に出している可能性があります。
かなり苦しい状況と言えます。
決算書の注目ポイント5 仮払金や貸付金の残高
これらはできる限り勘定科目内訳書を確認した方がいいでしょう。
残高が少ない場合はこの限りではありませんが、代表者に浪費癖がある場合、これらの勘定に反映されます。
「仮払金」は基本的に仮勘定ですから、本来であれば翌期には解消されてしかるべきなんです。
特に中小企業の場合は、決算書は社長を写す鏡です。
なんかもう既にずいぶん長いんですが。笑
すいませんあと半分です!
何も一度に全部覚える必要はありませんし、「そういえばそんな話もあったな」って感じで見ていただければ十分ですから。
流し読みしてもらって「その時が来たら読む」でも問題ありません。
宝くじが当たったら最終的に破産する人が多いらしく「その日から読む本」というものを頂けるそうです。
そんな感じで。笑
ただし視点として持っておけば役に立つ場面もあるでしょう。
決算書の注目ポイント6 売掛金や受取手形の内容
棚卸資産に並んで注意すべきはこれらの勘定です。
なぜなら、「期ズレ」を利用した売上の操作もまた粉飾に利用されやすいからです。
税務調査で真っ先に確認するのもこれらの項目です。
それだけ利益操作に利用されやすいという事ですが、その事実があった場合に残高に反映するのが、大抵の場合これらの勘定です。
売上の規模が毎期大きく変わらないようであれば、これらの残高はそんなに増減しないはずです。
売掛金や受取手形の残高が極端に多くなっているような場合は注意が必要です。
決算書の注目ポイント7 固定資産と減価償却費の状況
固定資産の状況は別表16があれば細かく確認する事ができます。
これらは通常、税務上の限度額により減価償却されます。
よほどの大企業であれば別ですが、通常は税法上の限度額を基準に償却します。
ただし、減価償却は任意であるため、利益を出すために意図的に償却しない事もあるかもしれませんので、そのような場合は利益額が適正でない可能性があります。
最近は金融機関もこれを考慮するようになってきたように思いますが、以前は完全に合法な利益操作としてよく行われていたように思います。
これも注意してみる必要があります。
有利子負債の項目で記載したように、固定資産の内容によっては健全な範囲で設備投資している場合があります。これらも確認するといいです。
決算書の注目ポイント8 税金の滞納状況
「未払法人税等」の残高と「法人税等」の金額により税金の滞納が無いか確認します。
別表4や別表5があればより詳細に確認する事ができます。
言うまでもなく税金の滞納は資金繰りに窮している事が伺い知れます。
決算書の注目ポイント9 人件費の状況
ここで言う人件費は、役員報酬についてです。
仮払金などの項目でも述べましたが、役員報酬にも経営者のスタンスが現れます。
会社の業績が思わしくなかったり、融資が膨らみ続けているのに過剰に役員報酬を取っているような場合は注意が必要です。
言葉は悪いですが会社をつぶす経営者の特徴の一つと言えます。
決算書の注目ポイント10 買掛金や未払金の内容
これらに違和感があるケースは比較的少ないと言えます。
ただし、売掛金の場合と逆のケースが考えられます。
期ズレで仕入を翌期にずらす処理が行われる可能性が無いとも言えません。
買掛金や未払金の残高が極端に少ない場合は注意が必要です。
場合により法務局で登記簿謄本を取得する
いわゆる登記簿謄本は会社名と住所がわかれば誰でも取得できます。
不動産の登記簿も住所や地番がわかれば取得可能です。
これらは役員の構成や、抵当権の設定状況が確認できます。
不動産で地番がわからない場合は、住所を言えば法務局で教えて頂けます。
そこまで確認が必要なケースもレアだろうと思いますが、知識として持っておいて損は無いです。
また、別表2を確認すれば株主の構成も確認する事ができます。
場合によってはそれを元にインターネットなどで何らかの情報が得られる場合があります。
与信管理の裁量を誰(どの部署)が持っているかにも注意が必要
営業が与信管理の裁量を持っているような場合は特に注意が必要です。
基本的に営業職はそこまで詳細に確認できないと思った方がいいです。(当たり前ですが)
経理が「水際で阻止」する事ができる場合もあります。
実際に僕も危険だと判断しアドバイスしたところ、案の定数か月後に倒産に至ったケースがあります。
幸い数万円の被害で済みましたが、それからはよくアドバイスを聞いてもらえるようになりました。
関係者がみな自分事としてとらえるようになったからです。
それは大抵の場合、今回述べてきたような箇所を確認する事で察知できます。備えあれば憂いなしです。
この記事がいつか何かのお役に立てますと幸いです。
危ない会社の決算書の注目ポイントまとめ
この記事では決算書の読み方についてご紹介しました。
内容としてネガティブで決して楽しいものではありませんが、決算書を確認する機会がある方でしたら役立つ場面もあるかと思います。
また、この辺りの事務も社内に詳しい方がいない場合は税理士さんなど専門知識のある外部機関に依頼するのも一つの手段です。
もし税理士さんをお探しの場合は以下の記事をご参考下さい。